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英語スピーチで大切なこと〜”recognize”

松山英樹選手の優勝スピーチ

少し前になりますが、ゴルフの松山英樹選手がマスターズで優勝したとき久しぶりの明るいニュースに気持ちがパーっと明るくなったような気がしました。私はゴルフは全く詳しくないのですが、こんな風に日本中を明るくできるスポーツ選手と言うのは凄いなー、と感動したものです。


そして、始まった優勝セレモニー!!! 
松山選手がどんなスピーチをするのか、通訳はどんな訳出をするのかを私は野次馬根性丸出しで見ておりました💦 通訳の悲しいサガ、職業病ですねぇ。

固唾を飲んで世界中が見守るなか、グリーンジャケットを着た松山選手が話し始めました。(ドキドキ)

この素晴らしいオーガスタ・ナショナルでここに立てることがうれしく思っています。そして多くのファンのみなさんありがとうございました。

松山選手が日本語で言い、それを通訳が英語に訳したあと、

Thank you!

松山選手が英語で嬉しそうに言うと大きな拍手が湧き、ここでスピーチが終わりかと思かと思いきや!!!

スクリーンショット 2021-06-25 20.19.47

・・・通訳に何か耳打ちされ、松山選手は思わず「あー」と言った後に、

オーガスタ・ナショナルのメンバーのみなさんありがとうございました。
Thank you!!

と付け加え、再び拍手で盛り上がって今度こそスピーチ終了となりました。

・・・これは想像でしかありませんが、あのとき通訳さんは「お礼を言い忘れているよ」と囁いたのではないでしょうか。

英語でスピーチをする際に、名前を挙げてお礼を言うことはとても大切です。”recognize”という言い方をしますが、マスターズ優勝セレモニーでのオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブのリドリー会長のスピーチを聞いていても “I would like to recognize….” という表現が繰り返し出てきて、その度に大会開催に貢献してくれた人の名前を肩書きと共に挙げています。

“Recognize”という単語には、「認める」とか「認識する」という意味があります。晴れの舞台でスピーチする時には名前を挙げてお礼を言うことで、みんなに「功労者が誰であるのか」を認識してもらうということなのでしょう。

英語スピーチの苦い思い出

英語スピーチでの”recognize”について、実は苦い思い出があります。私は22歳にしてアメリカで2度目の高校生活を送ることになったのですが、(この辺りの詳細は著書に書いてありますのでご興味あれば読んでみてください)卒業式では卒業生全員がスピーチをすることになりました。田舎の小さな学校だったので「卒業生全員」と言っても10数人。せっかくだから全員スピーチをしようということになったのです。

はて、困った💦

「英語でスピーチせよ」と言われても、やっと日常会話ができるようになったくらいの身です。何を言ったら良いのか見当もつきません。

結局、「スピーチ」として何を話したのか記憶が定かでないのですが、思いつくがままに「皆さん有り難うございました」とか何とか言ったのだと思います(たぶん・・)

しかし、これが大失敗でした。卒業式でのスピーチという「晴れの場」で、皆んなの前で名前を挙げてお礼を言わなかったため、ホストファミリーがものすごく怒ってしまったんです。

いや〜、本当に怒っていましたねぇ。卒業式が終わってから丸一日くらい口も聞いてくれず(汗)、私は何を怒っているのか全く分からずオロオロするばかり💦

確か、翌日くらいに「ああいう場では、お世話になった人の名前を挙げてお礼を言うものなのに、あなたは私たちのことを無視した」と叱られて、やっと怒っている理由が判明したのでした。

そう言えば皆んな、卒業式のスピーチでは先生や家族や友達の名前を出して「ありがとう」って言っていたなぁ・・・と、言われてから気づいても後の祭り。知らないうちに「恩知らず」な行動をとったことに激しい自己嫌悪を感じ、ホストファミリーにはひたすら謝り続けたのでした。

名前を挙げて功績を称える文化

アメリカで暮らし始めた頃、建物や施設に人の名前が付いていると気づいたことがあります。例えば、NYのラガーディア空港はニューヨーク市長だったラガーディアさん、JFK空港はケネディ大統領と、偉大な人の名前を冠して功績を称える名称となっています。

LA国際空港にはトム・ブラドリー国際ターミナルと、初めて黒人としてLA市長を務めた方の名前がついていますし、大学でも図書館や校舎などの施設に人の名前がついていることが珍しくありません。これは、誰かの功績を称えたり、多額の寄付をするなど、その施設をつくるために貢献した人の名前が付けられているからだと聞きました。

一方で、日本では空港や図書館など、公の施設は地名などが名前となっていることが殆どです。ときどき何かのきっかけで施設の歴史などを読んでみると、寄付した人や、その施設をつくることに貢献した人の話が出てきたりはしますが、施設そのものに名前をつけてババーンと「この人のお陰で、この建物ができました〜!」みたいなのは、日本ではあまり見かけません。「秘すれば花」という言葉がある国では、そんな風に大々的に貢献した人を称えることは良しとしないということでしょうか。文化の違いですかね・・・。

忘れちゃならない”recognize”

スピーチの中で誰を”recognize”するかは、通訳にとっても要注意ポイントです。具体的な名前が出てくる上に、状況によっては「おばあちゃん」など、かなり個人的な人の名前を挙げることもあります。名前もスティーブとかナンシーとか、一般的で分かりやすいものなら良いのですが、中には珍しかったり聞き取りにくい名前の人もいます。しかも、その人たちは「ここに至るまでに貢献してくれた大切な人」と言う位置付けで名前を挙げられているので絶対に間違えてはいけない!!!・・・と、通訳としても緊張するところです。

そのため、スピーチなどの通訳で打ち合わせができる時には私は必ず「If you recognize someone, PLEASE let me know in advance」(名前を挙げてお礼を言うなら必ず事前に教えてください)とお願いしています。


そうすると「あ、そうだ!有り難う。誰を”recognize”するか考えておかなくちゃいけなんだった!」と仰る方もいるので、ネイティブの方でも前もって考えておかないと、うっかり大事な人の名前を言い忘れてしまうことはあるのだろうし、忘れると「私の名前は呼んでくれなかった」とか、ちょっと面倒なことにもなるのでしょうね。

松山選手も最初にサンキュー!と言ってスピーチを終わらせようとした時に通訳が機転を聞かせて耳打ちし、「オーガスタクラブの皆さん、有り難うございます」とスピーチを終了する前にお礼を言えたように、何かやらかしちゃいそうな時に注意してくれる人がいるとのは心強いものです。


あの高校の卒業式スピーチでも、私が壇上から降りる前に誰かが耳打ちして教えてくれていたらなあ・・・と今でも思ったりする私であります。

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