『DIAMOND online』にて記事連載中!!

同時通訳者の集中力

集中力維持のためにやっていることなんてない?!

雑誌のインタビューで、こんな質問を受けました。

「同時通訳というのは、とても集中力が必要ですよね。集中力維持のために、どんな工夫をしていますか?」

うーん。。。

確かに同時通訳はとても集中力を使います。
ただ、「集中力維持のためにやっていることは何ですか?」と聞かれても、思いつかないんですよね💦

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ただ、よくよく考えてみると、同時通訳の仕事をするときに現場での負担を減らすべくやっていることは沢山あることに気づきました。
私はこれを「省エネ」と呼んでいるのですが、集中すべきことに集中するために必要でないことは可能な限り排除しています。

例えば、こんな感じです。

「省エネ」のためにやっていること1事前準備
通訳者は事前準備にかなりの時間と労力を費やします。仕事の依頼を受けたら内容についてできる限りの情報を集めて理解を深めます。初めて聞く言葉や固有名詞などは「単語帳」にまとめたりします。これは、事前にある程度内容を理解しておくことで現場で通訳する際に大枠を捉えやすくしたり、考えるエネルギーを省くためです。単語帳を作るのも、難しい言葉や固有名詞をいちいち「なんだっけ?」と思い出す労力を省き一目で確認できるようにしているのです。

「省エネ」のためにやっていること2:話し手の特徴をつかむ
最近はオンラインの業務も増えましたが、通常は現場に行くとスピーカーの方と打ち合わせをします。事前に資料を読んで疑問に思った点について質問したり、相手の伝えたいポイントを確認します。このときに私が心掛けているのが、相手の話し方の癖を掴むということです。英語は国際共通語と言われますが、英語でスピーチをする人が必ずしも英語ネイティブとは限りません。訛りがあることもありますし、英語ネイティブの方であっても口癖や話し方の特徴があります。事前の打ち合わせでは、内容の確認と同時に話し手の喋り方の傾向も確認しておくことで、いざ本番になって「訛りがキツくて聞き取れない!」などのサプライズを避けるようにしています。

省エネのためにやっていること3:通訳ブース内のセットアップ
本番前に通訳ブースに入ると、資料や筆記用具を使いやすい位置に並べます。紙資源のムダ遣いを減らそうと、資料はなるべくiPadで見るようにしていますが、単語帳やポイントをまとめた資料は必ず印刷して紙で用意します。万が一電源が落ちたりフリーズしたりした場合に慌てて注意力が削がれるのを防ぐためです。

通訳用のメモに使うペンは必ず予備を一本用意して目に見えるところに置いておきます。滅多にないことですが、突然ペンが書けなくなったときに予備を探すのも集中力を削ぐ原因になりかねないからです。

そして自分の水に目印をつけます。通訳は喋り続けるため口が渇きます。通訳ブースにはペットボトルの水が用意されているのですが、当然のことながら通訳者全員に同じものが配られます。同時通訳をしながら水を飲むときに一瞬、「自分の飲みかけボトルはどれだっけ?」と分からなくなってしまうことがあるんです。そんな一瞬の迷いでも無駄なエネルギーを使うことを省くために予め目印をつけておくのです。

そして、必要ないものは全てカバンの中にしまいます。通訳ブースは狭いので、余分なものが出ていると邪魔になります。何かの拍子に物が落ちたり引っかかったりすると気が散るので、必要ない物は全て事前に削除しておくのです。

集中というのは、必要なところに意識を集めること

「集中力維持のためにやっていることは何ですか?」と質問されたときには、「特に何もやっていない!」と思ってしまいましたが、よくよく考えてみると「やらなくても済むようにしていること」は沢山ありました。

普段、私が「省エネ」と呼んでいる、「現場で使う不必要なエネルギーは極力省くためにやっている様々なこと」は、言い換えれば「集中力維持のためにやっていること」だったんですよね。

「集中」というのは、必要なことに意識を集めることです。必要なことに意識を集めるために他を排除することこそ「集中力の維持のためにやっていること」と言えるのかもしれません。

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