「みかん色の猫」について

赤毛のアン

子供の頃に大好きだった本に「赤毛のアン」があります。

典型的なベッドタウン、つまりは都会でもなく田舎でもない中途半端な街で生まれ育った私は、幼いころから大自然に囲まれた生活に憧れていました。自然豊かなカナダのプリンス・エドワード島が舞台の「赤毛のアン」は、情景描写が本当に美しくて読むたびに見たこともない景色を想像しては心を躍らせたものです。

「赤毛のアン」のアン・シャーリーが主人公の本は10冊以上あり、夢中になって全部読みました。(NHK朝ドラの「花子とアン」のモデルにもなった村岡花子さんが訳した日本語版です。)そのシリーズの一冊「アンの娘リラ」に、「みかん色の猫」というのが登場します。

これを読んだとき、「みかん色の猫ってどんな猫だ?」と不思議に思ったものの、外国にはそんな珍しい猫がいるのかしらんと、それがどんな猫であるかを確かめることもありませんでした。

謎が解ける

月日は流れ、不登校を経てギリギリの出席日数で高校を卒業した私は、ずっと生きづらさを感じていた日本から逃げるように単身アメリカに渡りました。現地で通ったESL(English as Second Language=英語が母国語でない人を対象とした英語学校)の授業で、ある日「好きな動物」について話す機会がありました。拙い英語でたどたどしく私が「I love cat.」と言ったら、先生が「Me, too! I have a cat!」と仰いました。
何も言わないのも悪い気がして「What color?」と聞いてみました。本当は「What kind of cat ?」(どんな猫ですか?)と「猫種」を聞きたかったのですが、英語で何というか分からなかったので「What color?」と言ってみたのです。

そしたら先生が「Orange!」というではありませんか!・・・オレンジ色の猫?そんなの見たことない。「オレンジ?」カタカナ英語で首を傾げる私に先生は「Yes, orange!!」と自信満々に繰り返します。「猫が、オレンジ色って、どういうこと?」と言いたいけれど、英語では言えないので黙ったままで困惑顔の私に先生が「見せてあげる!」と言って手帳から写真を取り出して見せてくれました。(時代ですね〜。スマホなんてなかったので、見せてくれたのは手帳から取り出したプリントアウトした写真ですよ・・・笑)

オレンジ色の猫って、どんな猫???」と興味津々に期待を込めて覗き込むと、


そこに写っていたのは!

フツーの茶トラの猫でした。


あーーーーーーーーーっ!
その時に、あの赤毛のアンシリーズに出てきた「みかん色の猫」の正体が判明したのでした。

色の表現の違い

私たちが「茶色」と認識している猫の色を、アメリカ(カナダも)の方々は「オレンジ色」と呼んでいたんですね!

色の表現って文化の違いが出やすいものの一つだとは思いますが、、、そういえば、太陽の絵を子供に描かせると赤く塗るのは日本だけで、他の国では黄色で描くというのは有名な話です。

更にそこから何十年かの時が流れ、つい先日「アンの娘リラ」(原題:Rilla of Ingleside)の原文を調べてみたら・・・ありました! 

“fur of a dark yellow crossed by orange stripes” 直訳すると「濃い黄色の毛皮にオレンジ(みかん色!)の縞」とあります!この部分の村岡花子さんの翻訳を改めて見てみると「みかん色の縞が入った濃い黄色の毛皮」となっています!

「赤毛のアン」の翻訳者、村岡花子さんは明治生まれ。今のようにインターネットで画像検索すれば直ぐに確認できる時代でもなく、私のように、たまたま海外で知り合った人が「みかん色の猫」を飼っている話題になり、”orange cat”の正体が「茶トラ」であることを幸運にも知ることができる機会など恐らくない中で、翻訳されたのだろうと想像します。

そういえば、大先輩の通訳者の方から「今はインターネットがあるから良いけどね、昔は準備も大変だったのよ。仕事の前日は国会図書館に籠もって準備するのが普通だった」と聞いたことがあります。

通訳の仕事は準備が命。当日のパフォーマンスは、いかに準備段階で理解を深めるかに左右されると言っても過言ではありません。それをインターネットがなかった時代にどのようにしていたのか、私には想像も出来ません。

ふと思い出した「みかん色の猫」の記憶に、懐かしさとともに偉大な先人たちへの感謝と尊敬の気持ちを改めて感じています。

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